ちゃたろう —戦いの記録—

飼っている猫が突然死にかけ、そして救われた話

#08 7/27(木) 死にかけての退院(前編)

 

夕方、かかりつけ医から電話があった。

今日の退院についてのお知らせかと思いきや……

 

今朝から容態が急変し、肝臓のデータが著しく悪化していると思われます。目には黄疸が出始めており、ヨダレも垂れっぱなしの状態です。

今日退院とのことでしたが、明日の病院ギリギリまで点滴を続けたほうがいいと思います。万が一の場合は、その……明日の朝まで、ちゃたろうちゃんは…………もたないかもしれません」

 

急激な変化に理解が追いつかない。
いや、理解したくないだけなのかもしれない。

 

昨日までは食欲がない原因は不明なものの、データは正常だったはずだ。
なのにどうして……どうして、明日の朝までもたない、などと言うのだろうか。

 

目に黄疸は怖いイメージがある。
その昔、知り合いの方が肝臓癌で亡くなったのだが、亡くなる間際に会ったとき目が黄色かったのをよく覚えている。

 

……ちゃたろうもこのまま死んでしまうというのだろうか。

明日の朝まで、明日の病院までもたないかもしれないなんてあんまりだった。

 

これでちゃたろうとは最後の予感がした。

だからこそ、かかりつけ医の提案には次のように返答していた。

 

「そういうことなら、今すぐ退院させたいです。最後かもしれないのなら、一緒に家で過ごしたいので……」

 

「なるほど、そういう考え方もありますか。それなら今日の深夜に退院させるのはどうでしょうか? ギリギリまで点滴は打ったほうがいいと思うので」

 

辺りは薄暗くなり始めていた。

 

「いえ……今すぐ迎えに行きたいと思います。ちゃたろうは病院からの帰り道を一緒に歩いて、外を眺めるのが好きだったので。できれば少しでも明るいうちに……景色が見えるうちに、一緒に家に帰りたいと思います」

 

ちゃたろうはキャリーバッグの中に入って、病院から家までの道のりをいつも楽しんでいたのだ。

20分くらいの距離なのだが、途中で大通りがあり、踏切があり、学校がありと、決して退屈な道のりではないのが面白いのかもしれない。

キャリーバッグのメッシュになっている部分から、いつも真剣に外を眺めているのだ。

 

こうして私はかかりつけ医からの提案をことごとく断り、ちゃたろうを迎えに行くため動物病院を目指した。

 

歩いている間は涙が止まらなかった。

どうしてこんなことになってしまったのか。

未だに現実を受け入れられない。

 

数日前に思い描いていた点滴で元気になる姿はどこにいってしまったのだろう。

ほんの1週間前はまだ元気にしていたじゃないか。

たった1週間で、一体何が起こったというのだろうか。

 

――病院に到着した。
ちゃたろうは私の顔を見ると鳴いた。

とにかく鳴いた。

必死の訴えのようにも聞こえるし、寂しかった証左のようにも思う。

 

話に聞いていたよりは元気そうに見えたのだが、その後はすぐにぐったりしてしまい、口からはヨダレが垂れっぱなしになってしまった。

 

「肝臓が悪化してしまい、肝リピドーシスを発症してしまったかもしれません。1週間近く胃に食べ物が入ってこなかった状態だったので、それが原因かもしれません」

 

言いながら、かかりつけ医は明日の病院の診察で必要な書類を渡してくれる。

 

「これは大事な書類なので確実に渡してください」

 

ちゃたろうの状態の経緯、急変した旨、合併症として肝リピドーシス発症の疑い、などの文言が見えた。

医者から医者への引き継ぎ書のようなものだろう。

 

こちらの動物病院では5日間の点滴入院(血液検査も含む)だったが、念のため費用も明記しておく。

入院の費用はどのくらいかかるものなのか、知りたい人の参考になればと思う。

 

私も動物病院への入院は初めてであり、どのくらいかかるのか不安だった。

勿論、病院によって費用はまちまちだと思うので、参考までにということで。

 

入院費用: 95,200円

 

帰り道、ちゃたろうは静かに外を見ているようだった。

あまりにも静かなので何度も確認してしまうが、目が合うと静かに鳴き、あとは景色の流れをじっと眺めていた。

 

相変わらず、踏み切りでは電車が通ると驚く様子を見せてくれる。

こうしていると、いつもと変わらない気もするのだが、明日までもたないかもしれない状態なのだ。