ちゃたろう —戦いの記録—

飼っている猫が突然死にかけ、そして救われた話

#29 8/12(土) 改善が続く

担当の先生から連絡があった。

当初の予定では今日は再手術の日だったが、昨日大幅な改善を見せてくれたので再手術は一旦無しとなった。

 

TBIL=3.9

PCV=17

 

黄疸の数値は改善しているものの、貧血については改善があまり見られないようだ。

貧血の病気の可能性も疑っているとのことだ。

 

貧血の病気の特徴としては、

  • 黄疸の数値に影響する
  • 内科的な治療となり、ステロイドと相性がいい

 

胆管の出口の詰まりが解消されたかは、現段階ではハッキリしない。

現状はこのままステロイド治療を続けて様子見となった。

 

明日は日曜のため、担当の先生からの報告はない。

 

 

【今日のまとめ】

  • TBILが更に改善
  • 貧血の病気かもしれない
  • 現状は薬の投与で様子見

 

 

#28 8/11(金) 意外な展開

担当の先生から連絡があった。

このタイミングで再手術のお願いをする必要があるが、先ずは先生の話を聞いてからに。

 

黄疸(TBIL)と貧血(PCV)の数値について。

 

TBIL=5.8

PCV=17

 

昨日(TBIL=17)までの状態が嘘のようにTBILが大幅に改善した。

食欲もあるとのことだ。

 

再手術の決心をしていたものの、先生からは「今すぐに手術ということは考えなくて良さそう」と伝えられてしまった。

 

望み薄だったステロイド治療が3日目にして効いてきたのかもしれない。

昨日の段階では、2日やってダメなものが3日目になっていきなり効くとはあまり思えないとの意見だったが、見事にちゃたろうは先生の見解を裏切ったようだ。

 

ただし、前回の手術後の改善からの悪化があるので、まだまだ油断はできない。

とはいっても、今日は良い知らせとなったことは間違いない。

 

というわけで、明日の再手術の話は一旦無くなった

上手くいけば、このまま薬で改善できてしまうかもしれない

 

 

【今日のまとめ】

  • TBILが大幅に改善
  • 明日の再手術は一旦無しに

 

 

おまけ画像

8/9



 

#27 8/10(木) 再手術の説明

さて、外科の先生からの説明だ。

先ずはずっとチェックし続けている黄疸(TBIL)と貧血(PCV)の数値について。

 

TBIL=17

PCV=15

 

続いて、ステロイドの投与についての説明があった。

 

昨日からステロイドを投与している

効果が出てくるのに2〜3日かかるが、今日が2日目なことを考えると、明日になっていきなり効いてくることは期待できない

つまりステロイドでの改善(内科的処置)は望み薄である

食事をしたり活動性が出ていたのは、ステロイドの影響かもしれない(一時的に元気になっているだけ)

 

というわけだ。

 

先ほどまでの元気なちゃたろうは、ステロイドによる一時的なものだったことになる。

とはいえ、元気な姿を見ることができたのは素直に嬉しかった。

 

続いて、現在のちゃたろうの状態の説明となった。

 

■現在の状態

胆管の下の方にゼリー状のものが詰まっている

詰まりの原因だった巨大な胆石は確実に落とし切ったものの、胆管と胆嚢の中がゼリー状で満たされていたので、こちらが悪さをしている

洗浄でできる限り落としたが全部は落ち切らず、十二指腸へと続く出口で詰まってしまった可能性が高い

また、胆管内もゼリー状のものが多く残っており流れが悪い

 

病名としては、閉塞性黄疸

 

ちゃたろうを瀕死に追いやったのは、胆管内に巨大な胆石が詰まっていたからだ。

しかしこの胆石が無かったとしても、胆管内はかなり汚れがあり、流れが悪かったようだ。

ここ2年くらいの食欲不振や吐く回数の多さは、胆管内の汚れが原因だった可能性がある

 

そう考えると、もし問題の胆石が無かったとしても、遅かれ早かれ胆管内の汚れを取る何かしらの処置が必要だったのかもしれない。

 

 

■解決策

再手術にて総胆管ステントを設置する

 

十二指腸へと繋がる胆管の出口は急激に狭まり、ただでさえ詰まりやすい構造をしている

総胆管ステントとは、胆管から十二指腸へ流れる道を1本増やすこと

交通状況に例えるなら、今まで1車線だったものが、2車線になるので、流れもスムーズになるよね、ということになる

 

 

■再手術のリスク

当然ある

この短期間で再び手術を実施する(お腹を切る)ことについて尋ねると、そういったケースもままあるとのこと

 

そして輸血が必須となる

 

また血の問題か……と思っていたが、1回目に輸血してくれた猫ちゃんが、そろそろ再び輸血をしてもいいタイミングになるらしい。

なので輸血確保の心配は不要とのことだった。

それにしても、輸血に強力してくれるスタッフさんの猫ちゃんには感謝しかない。

 

 

■所感

昨日までは「手術ミスの可能性もあったのでは?」と疑ってしまうこともあったが、その疑いは晴れた。

手術で全部はやりきれなかったのだろう。

当初の予定では、前回の手術にて総胆管ステントの設置の話は出ていた。

 

しかし、ちゃたろうの血の減少と体力、リスクをなるべく回避したかった、などの理由によりここまでできなかった(しなかった)のだろう。

総胆管ステントの設置はしなくても改善する可能性は高かったが、現状はそれが悪い方に出てしまったというわけだ。

 

根本の原因は巨大な胆石の詰まりだったが、これがなかったとしても胆管内の汚れは相当に酷い状態だった。

もしかしたらこれだけでも手術が必要なレベルだったのかもしれない。

 

……もう1度、この病院を信じて、再手術に賭けてみてもいいのかもしれない。

 

 

続いて、二次災害的な合併症の話。

 

■肝臓の状態

  • 胆管肝炎と肝硬変のリスクがある
  • 今回の騒動で肝臓へのダメージがかなりある
  • 肝臓は回復の臓器とも言われるので、今は目先の問題を解決し、あとは肝臓の回復に期待したい

 

最後に今後の方針の話となった。

 

①内科的治療を続ける

このままステロイド治療の継続

長く続ければリスクもあるし、段々と効かなくなる

そうなってしまってから手術を受けたいと言っても、できない可能性は十分にある

 

 

②外科的治療

再手術にて総胆管ステントの設置

 

 

③諦める

退院して、亡くなるのを看取ることになる

 

 

②以外に選択肢はないだろう。

 

 

こちらは納得のいくまで話を聞き、先生のほうは元々丁寧な説明であることから、なんと1時間半近くも話していたようだ。

お忙しいというのに本当に申し訳なかったなと……

 

さて、この日は最後にビッグイベントが残っていた。

一旦、これまでの費用を精算するのだ。

 

8/9までの入院、手術、検査、その他もろもろなどの合計は、

約138万円(内金含む)となった。

 

 

私が再び病院を信用し再手術を決心したことを妻に伝えると、たいそう喜んでくれた。

 

「わたしはもう再手術は無理だろうなと思ってた。あなたは一度疑うと悪い方へと考えが突き進んじゃうから……。他人を信用しないあなたをここまでもっていけた病院は本当に凄いと思う。あとは再手術でちゃたろうに頑張って貰いましょう」

 

再手術をするなら明後日の土曜日だと言われた。

明日までに再手術するかどうかの決断をし、先生に伝える必要がある。

しかしもう決心はついている。今すぐに連絡してもいいくらいだった。

 

決戦は土曜日だ。

 

 

【今日のまとめ】

  • 面会では元気な様子も
  • ステロイド治療を昨日から開始
  • 先生と納得いくまで話した
  • 費用を一旦精算
  • 再手術の決心

 

 

#26 8/10(木) 面会では元気な様子

ちゃたろうが助かる望みが薄くなっても、まだゼロになったわけではない。

今日は先生から納得いくまで話を聞き、先ずはこの病院を信用する気持ちを取り戻したいと思った。

そして再手術の決心をしようと。

 

先生から呼ばれるのを待っていたところ、先にちゃたろうとの面会となった。

というのも、スタッフさんが大慌てで私のところにやってきて

 

「今、ちょうどご飯を食べているところなんです。よかったら来て下さい」

 

予約していた面会の時間よりもかなり早かったが、ちゃたろうの元気な姿を見せたかったから飛んできてくれたのだろう。

スタッフさんはそのまま飛ぶように病室に戻っていくので、私も飛ぶように追いかけるのだった。

 

――私がちゃたろうの目の前まで到着すると、どうやらもう食べるのは終わってしまったらしい。

食べているシーンを見たかったが、ちゃんと食べてくれたのなら何よりだった。

 

 

 

ちゃたろうを見て先ず思ったのは、再びエリザベスカラーが装着されていたことだ。

手術前はヨダレが垂れっぱなしだったので装着していたが、手術後はしていなかった。

 

再びヨダレが増えてきたのかと嫌な予感はしたものの、今回の装着は理由が違うようだ。

活動性が出てきたから装着したとのことだ。

どうやら毛繕いをするようになってきているらしく、それを防止するために装着したのだという。

 

昨日は先生から悪化して再手術が必要になるかもしれないとの連絡を受けた。

かなり悪い状態を想像して来たのだが、ご飯は食べているし、活動性も出てきている。

そして毛繕いまで……

覚悟していた状況とはかなり異なり、元気な姿と良い話に癒やされてしまった。

 

スタッフさんにちゃたろうの状態を尋ねたところ「よく分からない」とのことだ。

昨日までぐったりしていたかと思えば、今日になって元気になっていたりと、何がなんだか分からないらしい。

やれやれ、こんな時まで気分屋のようだ。

 

私が見た感じのちゃたろうの状態としては、ヨダレは少しだけ出ていた。

しかし顔つきは凜々しい感じがあった。以前までの弱々しさはない。

 

ちゃたろうは私の顔を確認したときこそ、よく鳴いてくれたものの、数分もしないうちにそっぽを向いてしまった。

機嫌があまりよくないのかもしれないと思い帰ろうとすると、必死に鳴いて訴えかけてくる。

頭を撫でるとまたすぐにそっぽを向いてしまった。

仕方ないので帰ろうとすると、また必死に鳴いてくるというのを何度か繰り返した。

 

なんなんだ……

かまってちゃんモードが発動しているのだろうか?

 

思っていたよりもかなり元気な印象を受け、少し安心するのだった。

 

#25 【番外編】ちゃたろうとの出会い

最も絶望的な状態のときに書いた日記がある。

非常に恥ずかしいが、今日はその日記を公開したいと思う。

 

この日記はそもそも、ちゃたろうとの出会いと、今の絶望的な気持ちを記録として残しておき、何年か後、子供たちに見せることができればなと思って書いたものだ(子供たちは私とちゃたろうの出会いの話を知らないのと、動物を飼うことの大変さを伝えたかったので)

 

というものを、公開に合わせて加筆修正した。

恥ずかしいがここに晒しておく。

 

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『夢の終わり』

もう10年以上も前の話だが、ちゃたろうとの出会いは今でもハッキリと覚えている。

決して忘れることができないほどインパクトのあるものだったからだ。

もしこの出会いを他者に話せば、作り話と思われてしまうだろう

さて、前置きはここまでにして、私の頭の中に残っている記憶を書き出したいと思う。

 

今から13年ほど前の話だ。

Mさん(現在の嫁)の家に泊まっていた私は「ある夢」を見た。

猫を飼い、猫と幸せに暮らし、そして猫の最期を迎える……。

 

目覚めると、目には薄らと涙を浮かべていたようだ。

夢の中の猫がどんな最期だったのかは記憶にないが、よほど悲しいものだったのだろう。

 

私は寝起きそうそう「……猫、飼いたい」と声にしていた。

この自然と口から溢れ出た台詞を聞いたMさんがギョッとしていたのを今でもよく覚えている。

 

それもそのはずだ。

私は猫に全く興味がなかったのだから。

むしろ猫が好きか嫌いかの二択を迫られたら、嫌いと答えただろう。

 

そんな猫に無関心な男が、寝起きそうそう猫を飼いたいなどと言い出すのだから、それを聞いてしまった人の心中はお察しする。

 

そうこうしているうちにMさんが出掛ける準備を終え、玄関のドアを開けると、

 

「…………嘘でしょ」

 

と、まるでお化けでも見たような声を出していた。

 

私はお化けが出た玄関へと近づいてみる。

この部屋は1Fなこともあり、玄関のドアを開けると廊下を挟んですぐに雑草が生い茂る景観の素晴らしいアパートだった。

 

なんとその雑草で茶色の猫が遊んでいたのだ

 

猫と過ごす夢を見て、猫を飼いたいと思った朝に、目の前に猫がいるのだ。

この家には何度も来ているが、猫が遊んでいる姿なんて初めて見た。

この邂逅に強い運命を感じてしまった。

いや、運命を感じないほうが難しいのではないだろうか。

 

「おいで」

 

と、私の家ではないが家の中へ誘うと、茶色の猫は遠慮なくズカズカと入ってきた。

 

猫は初めての室内なのか、興味津々に家の中を一通り探索する。

少しはゆっくりしてくれたものの、やがて玄関に行ってしまい、ドアに向かってずっと鳴き続けてしまった。

 

——外に出たいのだろう。

野良猫なんだから外の世界に戻りたいのは当然だった。

運命を感じたのは私のエゴに過ぎない。

この猫を飼いたい気持ちはあったが、いつまでも閉じ込めていては猫が可哀想だろう。

もはやここまでか。

 

私が玄関のドアを開けると、猫は外へ出てスタスタと歩き始めてしまった。

やがてアパートのエントランスへと消えて行くのを私は名残惜しそうに眺めているだけだった。

 

きっとこれで良かったのだろう。

……そうは思っても、運命的な出会いをした猫をきっぱりと諦めるのは難しかった。

私はずっとあの猫のことを考える始末だ。

猫と別れて2〜3時間後、何かの期待を込めて玄関のドアを開けてみた。

去ってしまった猫がいるわけなんてないのに。

 

しかし不思議なことは再び起こった。

朝と同じ光景が飛び込んできたのだ。さっきの茶色の猫がまた雑草で遊んでいたのだ。

この猫を何がなんでも飼うと決めた瞬間だった。

 

この猫こそが、ちゃたろうである

 

ちゃたろうとの生活が幸せだったのは言うまでもない。

その間にMさんと結婚し、子供も3人生まれた。

気づけば随分と大家族になったものだ。

 

――あの時、見た夢。

内容はぼんやりとしているが、猫と共に過ごした幸せな時間はきっとこんな感じだったのかもしれない。

 

しかし夢にはまだ続きがある。

猫の最期を迎えることだ。

 

 

——そして話は現在へと移り変わる。

 

ちゃたろうの容態が急激に悪化し、かかりつけの病院に入院することになった。

この病院で出された結論は原因不明。

うちではどうすることもできないと、大きな病院を紹介された。

もしかしたら大きな病院に行くまでもたないかもしれない、と言われるほどに重症だった。

肝臓が悪化しているのだ。目には黄疸が出現し、ヨダレも垂れ流しの状態だ。

 

紹介された大きな病院は『どうぶつの総合病院』といい、車がないとアクセスしづらい場所にある。

しかしながら東北自動車道の下を通る122号線沿いなので、車があればアクセスは良い。

ネットでこの病院の評判を調べたところ、動物病院界の最後の砦的な存在であることが書かれていた。

値段は高いが腕は確か、という安心と不安が錯綜する書き込みを何度も見かけた。

 

さて、この病院での検査の結果、胆管に大きなしこりがあると伝えられた。そしてこのしこりは癌の可能性が非常に高いだろうとのことだった。

更に絶望的なのは癌であれば手の施しようがないから、今すぐ猫を連れて帰って最期の時を一緒に過ごして欲しいという内容を伝えられた。

 

しかし癌じゃない僅かな可能性に賭けて、治療しつつ検査の種類を増やし、胆管のしこりの正体を確定させる選択肢もあるとのこと。

癌の可能性が高いってだけで、まだ確定はしてないのだから。

しかしそれで癌が確定した場合は諦めるしかないことになる。

 

私に迷いなどなかった。

この段階で諦めることなんてできない。

僅かな可能性に賭けてみることにしたのだ。

 

話は良い方向に進んできた。

癌じゃない可能性が強まってきたのだ。

しかし状況がなかなか許してはくれない。

 

ちゃたろうの状態が依然として悪いままで、いつ亡くなってもおかしくない上に、貧血まで進行し始めたのだ。

望みは出たものの、時間との戦いを余儀なくされてしまった。

 

……これが終わりなのだろうか。

これがちゃたろうの運命なのか。

ここがあの時の夢の終わりのシーンだと言うのだろうか。

 

しかし諦めることなどできなかった。

運命に抗ってみせる気持ちで、手術に向けてステップを進めることにした。

綱渡り的な状況が続く中、運の良さも味方をしてくれた。

 

何よりこの病院ならやってくれるだろうと信用できたことも大きい。

胆管のしこりの正体がついに判明したのだ。

巨大な胆石だったようだ。

 

最初は高確率で癌とされていたものが胆石だったのだ。

これを手術で取り除くことができれば黄疸も治るとの見解だ。

私はちゃたろうと病院を信じ、手術に踏み切ることにした。

 

手術中の私の心境はここでは語り尽くせない。

そして無事に成功した喜びも。

 

病院を出てすぐにやるべきことは、妻のMさんへの連絡だった。

結果を心配しているのは私だけではないのだから。

しかし成功した喜びに涙が止まらず、電話できそうにはなかった。

 

仕方ないのでメールで送ることにした。

しかしメールを打ち終わる間際で指は止まり、入力した文字列を全て消した。

例え上手く伝えられなかったとしても、今の感情をきちんと声で伝える必要があると思ったからだ。

泣いてたっていいじゃないか。

決して恥ずかしいことじゃない。そういうのも含めて伝えなければいけない。

感情を持たぬ文字列では何も伝わないのだから。

 

おかげで手術失敗したかのように伝わってしまい、大きな誤解が生じてしまったのだが、それはそれである。

 

手術も無事に終わり、あとはゴールに向かって突き進むだけとなった。

黄疸の数値も順調に下がり、貧血も下げ止まり自分で血を生成できるようにもなった。

そしてご飯も食べるようになったとの嬉しい報告も。

 

勝利は確定だ。

苦しい戦いもこれで終わり、あとは元気な姿のちゃたろうが帰ってくるのを待つのみとなった。

当初は元気なちゃたろうを再び見ることなんて夢物語だったのに。

そんな幻影がとうとう実現してしまうというのだ。

 

……しかし。そう上手くはいかなかった。

黄疸の数値が再び悪化し、ちゃたろうが非常に悪い状態に戻ってしまったのだ。

手術前と変わらぬ苦しむ姿に。

 

あとはもうゴールのテープを切るだけだったのに何故?

どうして希望を与えた後に絶望の淵へ突き落とすのか。どうせ奪うなら希望なんて与えないで欲しかったくらいだ。

 

担当の外科医の先生は、あとできることは内科的な処置だという。

それでダメなら再手術しかないと。

 

再手術なんて、ちゃたろうの体力が持つとは思えなかった。

 

——手術は不完全なものだったのだろうか?

失敗なのだろうか?

疑心暗鬼が強まるのと同時に私の病院を信用する気持ちが弱くなっていくのを感じた。

こんな状態で再手術の決断などできるはずはない。

 

ちゃたろうと出会った日に見た夢。

夢の終わりのシーンは「ここ」なのかもしれない。

こんなところが終わりなのか……

勝ったと思った先に待ち受けていたのは、こんな結末だというのか。

 

 

——いや、ここで諦めるわけにはいかない。

ちゃたろうは苦しいなか、孤独に今でも頑張っているのだ。

私が諦めることはちゃたろうに対して失礼じゃないか。

一番大変なのはちゃたろうなんだから。

 

まだ諦める時じゃない。

まだ結末じゃない。

勝手に夢の最期のシーンと重ねてはいけない。

 

絶望していても何も始まらないだろう。

やれるだけやって、ダメなら仕方がない。

生き物の命に絶対や確実なんてないのだから。

 

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日記を書くことで良いことも悪いことも吐き出せたおかげか、私の思考はいつしかプラスなものへと変化していた。

書けば書くほど、ちゃたろうのことを諦めたくない気持ちが強まったのだろう。

 

——ここが最後の勝負になると直感した。

再手術になるだろう。

 

ちゃたろうの体力、状態、手術内容、輸血、などなど。

必要なことを数え上げればキリがない。

 

そして最後の最後で必要なものは……運なのかもしれない。

あとは最後のピースである運をつかみ取れるかどうか。

 

明日はちゃたろうとの面会がある。

同時に担当の医師と話しをすることにもなっているので、納得のいくまで話を聞いてみたいと思う。

そして病院を信用する気持ちを取り戻し、万全の状態で戦いに臨みたい。

 

ちゃたろう、勝手に諦めたりして本当に申し訳なかった。

 

#24 8/9(水) 絶望

この日の絶望を忘れることはないだろう。

黄疸の数値は更に悪化し、ヨダレも垂れっぱなしの状態に完全に戻ってしまった。

 

TBIL=17.0

PCV=19

 

はっきり言ってしまえば、手術前と変わらない状態に戻ってしまったのだ。

 

原因は、昨日少しだけ触れた「胆管の詰まりと汚れが改善しきれてないのかもしれない」なのだろう。

しかしそれ以上のことは伝えられなかった。あくまでも昨日は、可能性を伝えられただけなのだ。

 

私のなかで疑心暗鬼が芽生え始める。

詰まりとは何だろう?

詰まりの原因であった胆石は除去したのではなかったのか?

汚れも洗浄したのではないか?

落とした汚れが十二指腸まで流れず、その手前で詰まってしまっているのでは?

手術は不完全なものだったのだろうか?

まさか……失敗ということなのでは?

 

一度、ネガティブ思考に火がつくと、どんどん疑いの気持ちが強くなってしまった。

手術を無事に終え、ちゃたろうが元気な姿で帰ってくることを想像してしまったのに、手術前と変わらない状態に戻ってしまっているのだから、自分の悪い癖とはいえ、無理のない話だった。

 

医師からは薬とステロイドの治療を始めたので、これでダメなようなら再手術であることを伝えられた。

 

私はこのタイミングで「再手術」という言葉は聞きたくなかった。

手術を決心するだけでもかなりの決断を要した。

あらゆるピースがそろったからこそ決断でき、踏み切れたと思っている。

 

それなのに、もう一度手術だと言うのだろうか。

それもまだ原因をハッキリと伝えられてないのに。

こんな状態では首を縦に振ることはできないだろう。

少なくとも、納得のいく原因の説明が欲しいし、再手術のリスクも聞きたいところ。

あとは手術内容だ。

 

正直、薬やステロイドで改善するとは思わない

手術前と何ら変わらない状態にまで戻ってしまっているのだから。

この状況を薬だけで脱せられるとは、とてもとても思えないのだ。

 

……絶望以外の何ものでもない。

同じ状態にしたって、手術前と手術後とでは条件が違いすぎる

 

以前なら、手術さえ成功すれば……という希望にすがって頑張ってこれた。

しかし手術後に同じ状態になってしまうと、すがる希望がない

いや、あるにはあるが、薬頼みでは弱すぎるし、再手術はリスクのほうが気になってしまい、明らかに分が悪い。

 

一度、希望を抱いてからの絶望ほどきついものはない。

どうせ奪うのなら最初から希望なんて与えてくれなければいいのに……

 

 

【今日のまとめ】

  • 更に悪化
  • 手術前と変わらない状態に戻ってしまった
  • 再手術の可能性を伝えられる
  • 絶望

 

#23 8/8(火) 暗転

状況は一気に悪くなってしまった

 

TBIL=14.6

PCV=19

 

黄疸(TBIL)の数値が悪化するのに伴い、ヨダレが再び垂れっぱなしになってしまった。

ご飯も食べない。そして熱も上がってきているとのこと。

 

更に拍車を掛けるように貧血も進行し始めている。

また血の心配をしなくてはならないのか……

 

術後の一番良い状態だった日曜の動画(TBIL=5.6)を見せてもらったが、元気なときのちゃたろうそのものだった。

そこから2日だ。

たったの2日で再び悪い状態に戻ってしまったのだ。

 

今日はちゃたろうと面会もしたが、元気はなかった。

反応も全くなく、非常に嫌な状態だ。

もう疲れちまったよ……というオーラが全身から漲っているようにさえ思った。

 

悪化してしまった原因としては、胆管の詰まりと汚れが改善しきれてないことが考えられるとのこと。

薬を2種追加して、ステロイドの投与も開始することに。

薬2種のうち1つは胆汁の流れをよくする薬みたいだ。

 

医師にいくつか質問をしたが、重要そうなものを1つだけここに明記しておく。

 

Q.うんちはしたか?

A.昨日、軟らかいうんちをした。軟らかい原因は点滴とチューブ食が関係する

 

話を聞く限り、手術後にそこまでたくさんうんちをしたような感じではなかった。

 

胆管の詰まりの原因であった胆石や、胆管内の汚れを十二指腸に流したとすれば、それらはどこにいってしまうのだろうか?

素人の私の考えではうんちで出るものだと思っていた。

それなら、もっとたくさんのうんちをしていてもいいとは思うのだが。はてさて。

 

悪化の流れになり、ヨダレが再び出現したことは非常に心配だ。

しかし手術によって問題だった詰まりは解消しているのだから、薬とステロイドでなんとか回復できるのでは、という期待がこの時はまだ強かった。

 

胆汁の流れをよくする薬についても、手術前にかかりつけ医に相談したときに教えてもらったものだ。

術後は恐らく必要になるだろうと。

 

根本の原因は解消されたのだから、きっと大丈夫なはずだ……

 

 

【今日のまとめ】

  • 状態が悪くなってしまった
  • ヨダレが再び出現
  • 胆管の詰まりと汚れが改善しきれてない可能性
  • 2種とステロイドの投与を開始